野生型・過渡型・栽培型:邦崴の古茶樹から知る雲南の老茶樹
雲南の山林にある茶樹は、すべてが人の手で植えられたものではありません。自然に育った野生の茶樹もあれば、先人が馴化し何百年も栽培してきた古茶樹もあり、その中間にあたるものもあります。この三つのタイプを知ると、「雲南は茶樹のふるさとのひとつ」という言葉の重みがよりよくわかります。
三種類の古茶樹
| タイプ | 特徴 | よく見られる状況 |
|---|---|---|
| 野生型 | 原生林に自然に育ち、樹形は高く大きく、葉も大きい。花や実の形態に比較的原始的な特徴を残す | 多くは深い山林の中にあり、一般には日常に飲むお茶の原料にはしない |
| 過渡型 | 形態が野生と栽培の中間にあり、茶樹が野生から馴化へと向かった証とされる | 数はごくわずかで、邦崴の古茶樹がもっとも有名な例 |
| 栽培型 | 先人が意識して植え、世話をしてきた茶樹で、長い年月をかけて選抜・育成されてきた | 今日の古樹茶・大樹茶の多くがこれにあたる |
私たちがふだん飲む古樹のプーアル茶は、ほとんどが栽培型の古茶樹から来ています。たとえば氷島、老班章、易武、景邁の古茶園です。
邦崴の過渡型古茶樹
普洱市瀾滄県富東郷の邦崴村に、とても特別な古茶樹が一本あります。1991年に公表されたこの木は、標高約1,900メートルの場所に生え、樹高約11.8メートル、根元の幹の直径は1メートルを超え、樹齢は千年以上と推定されています。研究者は、その形態が野生の茶樹と栽培の茶樹の両方の特徴を併せ持っていると考え、「過渡型」古茶樹と呼びました。
1997年、中国は『茶』という特別切手のシリーズを発行し、その1枚目の図案がこの邦崴の古茶樹でした。これによって、茶の世界でもっとも有名な木のひとつになりました。
邦崴のお茶は近年「邦崴古樹茶」の名で市場にも出回っており、香りが高く、茶湯に厚みがあり、甘みが豊かだとよく評されます。
南糯山の茶王樹
もう一本よく話題にのぼる古茶樹が、西双版納・勐海の南糯山にあります。1951年、南糯山の半坡老寨で栽培型の古茶樹が見つかり、のちに樹齢800年余りと推定されて「茶王樹」と呼ばれました。この木は1990年代半ばに枯れてしまいましたが、雲南の先人が茶を植え、茶を用いてきた長い歴史を証明しています。南糯山には今も栽培型の古茶園がまとまって残っています。
景邁山:森の下の千年の茶園
普洱市瀾滄県の景邁山には、栽培型の古茶林が連なっています。布朗(プーラン)族と傣(タイ)族の先人が10世紀前後から森の下で茶樹を馴化し植え始め、茶樹と森が共生する独特の景観が生まれました。2023年に世界遺産に登録されています。あわせて読みたい:景邁山:森の下の千年の茶園。
古茶樹の樹齢はどう見るか
古茶樹の樹齢を正確に測るのは難しく、一般には幹の太さ、生育環境、地元の史料、集落の歴史などから総合的に推定します。ですから「千年の古樹」「八百年の茶王」といった数字の多くは推定値です。お茶を飲む人にとっては、数字よりも、茶樹の生育環境が自然かどうか、摘み取りが適度かどうか、製茶が丁寧かどうかのほうが気にかける価値があります。
樹齢による分類の実用的な考え方は古樹・大樹・台地茶の違いをご覧ください。
老茶樹を敬う
古茶樹のある集落の多くでは、今も茶祖を祀り、茶樹を畏れ敬う伝統が守られています。景邁山の布朗族は帕哎冷(パーアイレン)を茶祖として奉り、「茶樹を子孫に残せ」という祖訓が伝えられています。茶摘みの季節の前に儀式を行う集落も少なくありません。これらの老木は代々の人々が世話をしてきたものであり、古樹茶を一杯飲むことは、その世話の積み重ねを分けてもらうことでもあります。
古韻堂の氷島老寨 龍珠は氷島老寨のもので、その古茶園は勐庫大葉種の原種園のひとつとされています。
邦崴はどこにあるか
邦崴村は普洱市瀾滄県富東郷に属し、瀾滄江(メコン川上流)の西側の山間部にあります。有名な過渡型古茶樹は標高約1,900メートルの新寨に生えており、まわりは村人の畑や茶園です。瀾滄県は景邁山のある県でもあり、一つの県に千年の過渡型古茶樹と世界遺産の古茶林がそろっていることから、雲南の茶樹の歴史を知るうえで宝庫といえる場所です。
三種類の茶樹を見分ける手がかり
| 手がかり | 野生型 | 過渡型 | 栽培型 |
|---|---|---|---|
| 生えている場所 | 原生林の奥深く | 集落の近くや森のへり | 集落の周り、茶園 |
| 樹形 | 高く大きく、十数メートル以上のことも多い | 高く大きい | 摘みやすいよう剪定されていることが多い |
| 花や実の形態 | 比較的原始的な特徴を残す | 両者の中間 | 今日の茶樹に近い |
| 用途 | 研究、保護 | 研究、ごく少量の製茶も | 製茶の主な原料 |
茶樹のタイプの見分けには植物学の専門的な判断が必要です。表はあくまで一般的な目安です。
古茶樹と切手
1997年4月に発行された『茶』特別切手は4枚1組で、その1枚目に邦崴の古茶樹が描かれました。一本の木が国の切手になったことは、茶樹の起源研究におけるその重要な位置を示すとともに、雲南が茶のふるさとのひとつであることを多くの人に知らせました。
古樹茶を飲むときの心持ち
古樹茶が貴重なのは、生産量が少ないからだけではありません。一本一本の老木の背後に、集落の歴史があるからです。飲むときは少しゆっくりと、茶湯の厚み、回甘の長さに意識を向け、この木が山の上で何年立ち続けてきたのかに思いを馳せてみてください。
古茶樹の保護
雲南各地では古茶樹の保護がますます重視されるようになり、多くの古茶園で過度な摘み取りや剪定を制限する保護措置がとられています。お茶を飲む人にとっても、摘み取りが適度で老木を大切にしたお茶を選ぶことが、この保護に参加することになります。
よくある質問
野生の茶は飲めますか? 野生型の茶樹は栽培茶樹と成分が異なり、一般には日常に飲むプーアル茶の原料にはしません。市場に出回る古樹茶の多くは栽培型の古茶樹のものです。
邦崴の古茶樹は今もありますか? 邦崴の過渡型古茶樹は今も保護されており、地元の重要な茶文化のランドマークになっています。
古茶樹の年齢はどうやって数えるのですか? 多くは幹の太さ、生育環境、地元の史料から総合的に推定するもので、推定値です。